huuchiの音楽論文案内

音楽関連の論文案内ツイートを記事にまとめています。過去ツイも順次追加中。

月経前音声症候群の概要:定義,治療,今後の経過

『月経前音声症候群の概要:定義,治療,今後の経過』

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

歌手の月経前音声症候群(PMVS)に関するレビュー論文。ホルモンの変動は声の質,敏捷性,スタミナを損ない、酷い場合には歌手のキャリアを損なう可能性がある。


PMVSは月経のある歌手の3分の1の罹患が推定されている。症状は多くの場合、音声障害,声域制限,発声の敏捷性の低下,声質の低下,横隔膜のサポートの低下がある。


月経開始の5日前〜開始5日後まで症状が出ることがある(開始前が特に症状が強く出やすい)。これは月経期間中に体内で起こる生理学的変化と一致している。


PMVSと月経前症候群(PMS)の症状発現は関連しているものの、独立している可能性がある。例えば、PMVSは必ずしも感情面や行動面、そして婦人科の症状が現れるわけではない。また、PMVSはPMS患者の半数以上に現れるようであるが、PMSの重症度はPMVSのそれとは相関していないようである。
但し、PMVSはPMSの一般的な症状である腹部痙攣,吐き気,感情の不安定さ,疲労を伴う場合がある。


組織学的な証拠から膣と喉頭の塗抹標本に共通性があることは明らかで、喉頭は、子宮や卵巣に影響を与えるホルモン(エストロゲン,アンドロゲン,プロゲステロン)の変化に同じように敏感である。これは月経周期の中でホルモンが変動する時に声が変化する理由の生理学的根拠の可能性がある。


PMVSによる喉頭機能の変化は、プロゲステロンの上昇により月経に至る前の数日間に起こる。声帯粘膜は乾燥し,体液の分泌減少及び粘稠度の増加が起こる。また、声帯浮腫が観察され、声帯の振動が減少し、喉頭が重くなる。これにより基本周波数が低下し、高音域が発声できなくなる。
また、声帯の静脈が拡張及び腫脹し、出血の可能性が高くなる。


発声トレーニングのレベルによってPMVSの症状は異なる可能性がある。①喉を酷使する(abusive)傾向のある音大1年生の歌手と②健康的なテクニックを持った音大最終学年の歌手の比較では、①は強い症状と喉頭の変化を示したが、声の使い方を改めると症状などが軽減した。
また、高い技術を持つ歌手は、パフォーマンスに対するPMVSの影響を最小限に抑えられる可能性がある。


一部の鎮痛剤は発声器官に重大な副作用を齎す可能性がある。イブプロフェンアスピリンなどは抗凝固作用により、(月経に関連して)既に血管が拡張している声帯を出血しやすくする可能性がある。一方で、アセトアミノフェンコデインにはこの性質は無い。


英国音声協会(British Voice Association)は、辛い物,塩分の多い物,乳製品は声に悪影響を与える可能性があると指摘している。辛い物は逆流を惹起する可能性があり、過剰なナトリウムは脱水を起こす可能性があり、乳製品は粘液の生成を増加させて粘稠度を高める可能性がある。


月経前の期間に、歌うことを避ける必要はないが、声帯が出血,乾燥,構造変化を起こしやすいため、体の状態に合わせて歌唱する時間や強度を調整することが推奨され、場合によっては声を休めることが推奨される。


ヨーロッパのオペラカンパニーは、早くも19世紀から月経中の歌手に経済的・立場的なペナルティ無く休日を与えることに取り組んできた。


歌手を最大限サポートするためには、教育する側が生徒の月経前の発声困難の経験を理解し、生徒のニーズに応えられない場合は、生徒を外部の(医療的・教育的)リソースに繋ぐ姿勢を持つことが不可欠である。


premenstrual voice syndrome=月経前音声症候群(正式な訳語不明)


“It is a teacher’s responsibility to educate the developing singer and to provide them with strategies to promote vocal hygiene, physiological health, and mental wellness.(発展途上の歌手を教育し、声の衛生、生理的健康、精神的健康を促進するための戦略を提供することは、歌唱教師の責務です。)”

 


元ツイート:

 

 

この記事及び元ツイートは論文(の存在)を紹介するだけの簡単なものですので、詳しい内容についてはリンクから元の論文を参照してください。