huuchiの音楽論文案内

音楽関連の論文案内ツイートを記事にまとめています。一部、論文化されていない研究の紹介も含みます。

舌変形が生み出す音声の共通性と個人性

 

『舌変形が生み出す音声の共通性と個人性』
https://www.dysarthrias.com/wp/wp-content/uploads/2023/10/Vol.6-No.1-pp041-046_compressed.pdf


“声道の音響特性に由来する音声の共通性は,比較的低い周波数領域に含まれている.これは,低次フォルマントが母音を特徴づけているからである.一方,音声の個人性は,約2.5kHz以上の周波数領域に含まれている”


“それぞれの周波数領域は重複しており,相互作用もあって厳密には不可分であるが,声道形状とその音響特性の詳細な分析に基づいて,音声の共通性と個人性を分離したモデルが提案されている 2).本稿では,このモデルについて,その基盤となった声道形状とその音響特性の分析の概略を含めて解説する”


“声道形状を変形させる最大の要因である舌の筋系と変形メカニズムについて概説し,発話中の声道形状の可視化とその運動の分析結果を示す.次に,舌変形による声道形状の変化と低次フォルマントの変動パタンについて取り上げて,音声の共通性について解説する”


“そして,発話中の変形が比較的小さく,音声スペクトルに定常的な影響を与える喉頭腔や梨状窩の音響的な性質について概説し,これらを踏まえて音声の個人性と共通性について論じる”


“Ⅱ.舌の筋系と変形メカニズム”
“外舌筋は,オトガイ舌筋(genioglossus muscle:GG),舌骨舌筋(hyogolossus muscle:HG),茎突舌筋(styloglossus muscle:SG),口蓋舌筋(palatoglossus muscle:PG)である”


“内舌筋は,上縦舌筋(superior longitudinal muscle:SL),下縦舌筋(inferior longitudinal muscle:IL),横舌筋(transverse muscle:T),垂直舌筋(vertical muscle:V)である”

“舌は内部に骨格をもたず,ほとんど筋肉のみからなる器官であり,ゾウの鼻やイカの触手などとともに筋静水圧系の一つである 10.これらの器官では,長軸に垂直に走る筋群(perpendicular muscles),平行に走る筋群(parallel muscles),螺旋状に走る筋群(helical muscles)の3種類の筋肉がある”


“舌の正中矢状面における舌根から舌尖までの舌背に沿った曲線を舌の長軸として,舌筋をこれら3つの筋群に再分類すれば,GG,T,Vはperpendicular muscles,IL,SLはparallel muscles,HG,SG,PGはhelical musclesとなる”


“筋線維は収縮しても体積は一定だから,筋線維が長軸方向に短縮すると横断方向に膨張する.そのため,perpendicular musclesが収縮すると,舌の長軸に沿って舌を伸長させる”


“一方,parallel musclesが収縮すると,舌の長軸に沿って舌を短縮させる.いったん収縮した筋線維は外力によってしか復元しないので,perpendicular musclesとparallel musclesは拮抗関係にある”


“helical musclesが収縮すると,舌の長軸の回りに舌を回旋させる.これらの筋では,右回りの筋と左回りの筋(たとえばHGとSG)が拮抗している”


“ヒト以外の舌は前後に長いので,大部分のperpendicular musclesは前後方向に重なり並ぶ.そのため,どの部分でperpendicular musclesが収縮しても舌を前後方向に伸長させる(図2a).すなわち,長い舌では,舌を口外に突出させる機能が高い”


“ヒトの舌は丸いため,どの部分でperpendicular musclesが収縮するかによって舌が伸長する方向が異なる(図2b).すなわち,丸い舌では,口腔内で多様な変形をする機能が高い.これがヒトだけが話し言葉をもつ形態的な要因の一つであると考えられる”


“Ⅲ.発話中の舌変形の可視化と声道形状の計測”
大まかにいえば,舌が後下方に引かれるときはHGが,後上方に引かれるときはSGが,前上方に隆起するときはGGの後部が,それぞれ主として活動している”
“特に,/i/発声時には,GG後部の活動により舌が全体として前方に引かれることに加えて,筋線維の体積が一定であるために上方に膨張するという筋静水圧系に特有の変形がみられる”


“Ⅴ.音声の個人性”
喉頭腔は咽頭に比べて非常に狭いため,喉頭腔はそれより下流の声道(咽頭と口腔,以下主声道と呼ぶ)に対して音響的に独立性が高い 22-24)”
“そのため,声門を閉鎖端,咽頭への開口部を開放端とみなしたときの喉頭腔の共鳴(1/4波長共鳴:約3.0~3.5kHz)は,1つのフォルマントの生成を誘導し,多くの場合,それは第4フォルマントである 24).一方,その他のフォルマントは主声道に由来する 24)”


“前庭ヒダ(仮声帯)を収縮させて喉頭前庭を狭めると,第4フォルマント周波数のみを低下させ,第3フォルマントに近接させることができる24).これが歌唱フォルマントの生成要因であると考えられる”


“計算器シミュレーションで喉頭腔を除去すると,第4フォルマントのみが消失し,2~4kHzの周波数帯域のパワーが低下するが,その他のフォルマントや周波数帯域への影響は小さい”


“梨状窩は,長さが約1.6~2.0cm,容積が2.1~2.9cm3の袋状の空間で,音響的には声道の分岐管として作用する 27).すなわち,左右の梨状窩が共鳴してエネルギーを消費するために口唇から放射されるエネルギーが減少し,音声スペクトルの4~5kHzの帯域に2つの深い谷(ディップ)を生成する 27)”


“興味深いことに,左右の梨状窩がそれぞれ独立に1つずつのディップを生成するのではなく,左右の梨状窩が2つの異なるモードで振動することによって2つのディップが生成される 28)”


“下咽頭腔(※)の形状には個人差があるため,フォルマントやディップの中心周波数にも個人差が生じる.しかし,下咽頭腔は舌根より下にあるため,母音の違いによる舌変形の影響を受けにくく,個人内では形状がほぼ一定している”


“したがって,下咽頭腔は母音によらず,その個人に特有の音響的な影響を音声スペクトルの2.5~5.5kHzの帯域に与える.これが声道の音響特性に由来する音声の個人性の要因である”


※“喉頭腔と左右の梨状窩”“これらの部分を本稿では先行研究にならって下咽頭腔(hypopharyngeal cavities)と呼ぶ 1),2)”“本稿では声門より上部の咽頭への開口部までを喉頭腔と呼ぶ”


“特に,喉頭腔に由来するフォルマントは,人間の聴覚感度が最も良い3kHz 29)付近に現れるため,声質など個人性への影響が大きいと思われる”


“鼻腔や副鼻腔には舌のような可動部分がないので音声に定常的な音響特性を付与すると考えられるため,音声の個人性の生成要因の一つであるといえる”

 


元ツイート:

 

 

この記事及び元ツイートは元文献(の存在)を紹介するだけのものですので、詳しい内容についてはリンクから参照してください。